6月22日の朝6時に竹見台の家を出て、北急線の千里中央、モノレール乗り換えで大阪伊丹空港に行った。

事前に熊本空港行き往復切符を購入していたので、手続きは楽チンで 搭乗時間までのんびりと過ごした、荷物は2日分の作業服と着替え、長靴、帽子、雨合羽などで、スーツケースに隙間なく荷物が埋まった。

小物はハンディーカム以外は特になし。

飛行機は小雨の降る中大阪を飛び立って、約1時間の空の旅、熊本では霧の発生の為、100%自動着陸となった。

熊本も小雨だった、空港近くのレンタカーを予約していたので、送迎バスに乗り 手続きを終えて 八代に向かって出発。

カーナビを使った経験がほとんどない私は、操作に四苦八苦!なんとか新八代駅に設定して待ち合わせ場所に向かう。

空港から高速を使って約1時間30分、渋滞もなくその時間なので、吹田市から滋賀県彦根市に行くぐらいの距離だろうか、九州のスケールは大阪の物差しでは測り間違えそうになる。
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新八代駅で待ち合わせしてくれたのは、NPO法人たたみネット21理事長の南さん、まずはホームセンタに行って、マスクなどの必要なものをそろえて、他の畳屋さんがお手伝いをしている農家さんに、作業見学に行きました。

見るものすべてが新しいものばかり、分からないことはとことん質問して写真撮影、到着した瞬間から吸収力全開で 遠慮なく動き回る。

私が行く農家さんには3時頃行く約束、お昼ご飯は イ草麺を使った「イ草ラーメン」八代ではメニューにしているラーメン屋さんが多いようだ、南さんと畳業界について熱く話し合っていたので、特に味の感想が無かったというか忘れていた。
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時間を調整して、今回お世話になる農家「倉井さん」の所へ到着!さっそく作業着に着替えて長靴を装備、ちょうどイ草を刈り取り作業している最中でした。

倉井さんとお会いしたのは今年2回目、2月に 「たたみネット21」 の会議と畳表の製織作業に行った際、農家との意見交換の時に私が発言した事に、真剣さを感じてくれたのかも知れません、予定に無かった 「イ草の苗を見に来なさい」 というお声がかかり、在来種の苗を見せてくれたのが倉井さんの田んぼに行った1回目。

前回はイレギュラー、今回は自ら望んで農家に刈り取り作業を希望していったんです、農家には農家の誇りがあるでしょう、私にもこの業界に懸ける思いが本物である事を証明できる機会となるので、本気で農家を継ぐぐらいの気迫で自分にできる全力を出して挑んだ.
「そうでないと農家さんに失礼ですから」
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到着した日はまだ雨が少し降っていて、雨粒が刈り取ったイグサから滴り落ちていた。
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イ草の刈り取りは、クボタが製作した刈り取り機が残っているのみで、現在は1社しか無いにも関わらず、生産をしていないという状況と聞きました.

大昔は鎌で刈り取りをしていて、その次は草刈り機を改良したようなもので刈り、段々と進化して今に至るのですが、イ草専用の刈り取り機とあって、買い替える農家も無く、回転率も悪いためメーカーもラインナップから外さないとやっていけない.

農家でも悪い方向へのスパイラルに この業界は進みつつあるのが悲しい現実です。
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倉井さんの奥さんも、重要な作業員の1人。粘り強く働いておられて頭が下がる思いでした。
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倉井さんのお父さん、まだまだ現役バリバリです。汗をかきながら色々なお話を聞かせてくれました。
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今回の体験を受け入れて下さった倉井さん。男気のある人で、まさに九州男児!という表現がピッタリな人です。
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今回は曇り空だったので非常に作業がしやすい条件だったのですが、晴天の日は日除けのシートを被せながら詰め込み作業をして、暑さで体力も消耗します。

雨の日はカッパを着ての作業で、梅雨時期でも体を冷やしてしまう事があるので、体調管理が大変です。
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ラックにイ草を詰め終えると、フォークリフトでイ草の根っこが下に来るように立て直します。

倉井さんの設備は最新のもので、従来型のやり方よりも、作業工程を 2工程 短縮できるやり方です。
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イ草の温度を一定に保ち、泥染めにムラが出ないようにします。
いくら農作物とはいえども、色が一定でないと商品として扱うことが出来ません。

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チェーンでラックごと吊し上げて、染土の中へ漬け込みます。
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染土は主に淡路島や四国で取れるものが主流で、2種類の染土をブレンドして水と混ぜて作ります。

濃度計を用いて バケツでくみ上げた泥水の濃さを量り、水の分量で濃度調整を行います。
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イ草の先っぽがつかるまで水量が上がり、浸かりきったところで元の水槽に排水されて 泥染めは終わりです。
意外に短時間で終わりました。
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重油を焚いてイ草を乾燥させるのですが、庫内の温度が逃げないように、しかも通気が悪くなりすぎないように、絶妙な調整で イ草を乾燥させていきます。

ここで使う燃料代は、昔に比べて3倍の費用が掛かるため、いかに余熱を使って乾燥させるかが、経費の削減につながるカギとなります。
(1回に焚く量は約500ℓ。 リッター30円が100円になって大変な負担を強いられています)
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早朝4時から始まる 「釜揚げ」 という作業。
半端でない埃との格闘で、防塵マスクは必須です。
10束のイ草を結束して 袋に詰める作業が 7ラック分全て詰め終わるまで続きます。
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袋詰めしたイ草の束は、開口部を結んだあと いつでも出荷できるように井形に組んで積み上げていきます。
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今朝釜揚げした全てのイ草を積み終えると、今度はラックを外に運び出して、刈り取ったイ草を積みこみ出来る準備をします。
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乾燥釜も掃除して 早朝の部は終了!そしてお待ちかねの朝ごはんです。
倉井さんのお母さんが漬けたお漬物、具だくさんの味噌汁は最高に美味しかった。
働く活力を与えてくれます。
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作業中はほとんど言葉を交わす事もなく、それぞれが黙々と自分の役割を果たし、忍耐強く働く。
ご飯を頂く前のちょっとした会話がとても心を温かくしてくれました。
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今回の農家との交流により、畳業界が抱える課題が鮮明に見えて、もう手遅れではないのか?という気持ちにさえなりました。
しかし、農家の頑張りを理解して 畳屋はその想いをお客様に伝え、畳屋がお客様から頂いた喜びの声を 農家に届けた時、両者を隔てる壁は低くなり、同じ業界の人間として、目指すべき方向が定まる。
業界内の人たちが、互いに対等な立場で話し合えた時、この業界の活路を見出すことが出来る。
そして希望の光が見えると信じて、これからも経営努力を続けていきます。
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気持ちよく作業体験を終えた後の 熊本の空は晴れでした。
熊本県の熱い人情に ありがとう!
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